ペトラのバースデイパーティー

 前回の留学から帰る直前、ブルージュ国際古楽コンクール、アンサンブル部門に突然出場することになった貴久子は、約3週間、それまで本格的に触れたことのなかったモーツァルト時代のフォルテピアノの練習の特訓をしました。その時に快く自身の作成したフォルテピアノと場所を提供してくれたのが、アムステルダムに住むハープシコードメーカーのヨープ・クリンクハマー Joop Klinkhamer 氏でした。彼には今回の滞在でもとてもお世話になりました。
 ヨープの自宅にあるブラームス時代の楽器をいつでも弾いてよいと自宅の玄関の鍵を預けてくれたのです。ヨープは熱心に歌を歌うので、たまにヨープと歌曲の演奏を楽しんだり、夕食に招待してくれたり、またハーグ市立博物館に一日中案内してくれたりと至れり尽くせりの歓迎を受けました。
 日本びいきでアメリカ嫌いのヨープ。機知に富みおしゃべりなヨープとの話からオランダ人の物の考え方を色々と知ることができました。彼といる時間はとても楽しく愉快な気分になったものです。
 ヨープの奥さんのペトラ Petra も若く細やかな感性をもった人で、母性があり、私たちの娘、咲子もとても好きな女性です。ペトラはケータリング会社の社長でアムステルダムの中に会食のできる場所を持っています。私たちがオランダを去る2日前にそこでペトラの50歳のバースデイパーティーがあり、そのパーティーが信じられないほど素敵なものだったのでここで紹介しようと考えました。
 11月20日、私たちの住まいから程ないペトラのレストランまで歩いて赴きました。エントランスを入るとオランダ美人がシャンパンを手に迎えてくれます。そのサロンは普段からレストランとして営業しているものではなく、予約制の会議や大パーティーをするところといったゴージャスな場所で、照明もほとんどローソクの光だけでなされていて雰囲気も抜群です。そこでワインを片手に色々な人と雑談をしていると、ヴァイオリンのチューニングが始まりました。階上から18世紀の衣装に身を固めた男女が降りてくるとバロックオペラの始まりです。ハッセ Johann Adolf Hasse の3幕もののイタリアオペラがパーティー出席者達だけのために演じられたのです。もちろんヨープの筋からの依頼ですから優秀な演奏家達です。幕間には私たちはテーブルに案内され、おいしい食事がサービスされました。その食事も18世紀のレシピに基づいた料理という念の入れようです。バロックオペラはそれから20分ほど演じられ華やかに場を盛り上げ終わりました。食事もデザートに進みます。すると、やおら男性3人によるアルゼンチンバンドが入ってきました。アコーディオン、ベース、ヴォーカル with ギターという編成で、パワフルで陽気な音楽が鳴り出します。ペトラは大のダンス好きで、招待状にも「全ての男性と踊りたい」と太字で書かれていました。もちろんペトラはさっそく踊り出します。私たちも席を立ちめちゃくちゃに踊っていると、なんとダンス講師が来て踊り方の手ほどきまでしてくれるのです。貴久子は喜びの絶頂となり興奮して踊っていました。
 咲子がベットに行く時間になったので一番早くおいとましなければなりませんでしたが、一体このパーティーは何時まで続いたのでしょう。50歳の誕生日は、日本の還暦のようなビックイベントのようですが、ここまでぶっとんだ楽しみ方をしてしまうオランダ人。人生の楽しみ方を知っているように思いました。

写真
1:左からペトラ、貴久子、咲子、ヨープ
2:オペラの様子
3:アルゼンチンバンド
4:ダンス講師から手ほどきを受ける貴久子

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