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当時の楽器、当時の楽譜、当時の奏法で
新しいショパンの音楽が見えてくる。


−−小倉さんは浜松市楽器博物館とご縁が深いということですが、今回このコンサートでお弾きになるプレイエルにもここで出合われたんですか?
小倉 プレイエルは、ヨーロッパでオリジナルを弾いたことがあります。この浜松の博物館には2台のプレイエルがあって、1台は今回弾く1830年製のもので、もう1台はもう少し時代が下った新しいものです。1830年製のほうは今まで門外不出だったんですが、今回静岡文化芸術大学の研究事業の一環として、初めて外に出ることになったわけです。
−−今回は、このプレイエルというピアノが素晴らしい、というところからすべてがスタートしているように思えるんですが。
小倉 音としては、とても軽やかで香りがある、という感じなんですね。同じフランスのエラールのほうがもっと重い音が出ます。ショパンはプレイエルとエラールを好んで弾いたんですが、非常に気分の良いときはプレイエルを弾いた、といいます。エラールに比べるとプレイエルは弾くのが難しいのですが、自分の心の襞に寄り添って音を出してくれる、ということだったようです。ショパンはよくピアノ詩人といわれますが、そんなポエティックな部分を表現するのにこのピアノが非常に適していた、ということでしょうね。シューマンがショパンの演奏を評して「ペダルを踏み替えるたびに音楽の香りが変わっていくようだ」などと言っているのですが、プレイエルでやってみると、なるほどと思わせるものがあります。それから、現代のピアノは弦を音域によって交差させて張っていますが、このピアノはまだ弦を平行に張る平行弦なんですね。ですから、音量は小さいのですが、音域によって音色が変わってきます。音が混ざらないんですね。その結果、音域ごとに音に特徴があり、中音域で伴奏型を弾きながら高音域でメロディを弾くと、くっきりと通る音で聴こえてきます。
−−第一生命ホールは700席ほどなんですが、ちょうど良く聴こえそうですね。
小倉 そう思いますね。特に今回はフル・オーケストラが伴奏するのではなく、弦楽五重奏の編成による室内楽版によって演奏しますから、プレイエルと弦楽器がよく共鳴して、細かい音の動きとか、音色の変化を楽しんでいただけると思いますし、今の私たちにとって新しいショパンの音楽が見えてくるのではないかと思います。
−−本来こういう形での演奏というのは、演奏者と聞き手が同じ平面にいて行われていたものですが、その感じを少しでも味わっていただきたいですね。
小倉 プログラムの《ノクターンop.9-2》は、ショパンがプレイエルの奥さんに捧げた曲です。《ピアノ三重奏曲op.8》は決して演奏される機会の多い曲ではありませんが、すごく良い曲です。この作品を昔のプレイエルで弾くというのはごく稀なことでしょうね。時代的にもぴったりです。弦楽器はクラシック・ボウ(弓)を使います。
 私は今回、ロマン派奏法にこだわってみたいと思っています。例えば、ショパンといえばルバートが特徴といわれていますが、現代の私たちが考えている以上のテンポ・ルバートをショパンはやっていたんじゃないか、と思います。これは当時の演奏について作曲家のフンメルが書いていることなどを背景としているんですが、ショパンが弟子の楽譜に書き残しているものを見ても、その弟子の力量に応じてかなり自由に書き込んでいます。おそらく自身が弾くときも、毎回かなり自由に即興的に弾いていたのでは、と考えています。
−−きちんと調べたわけではありませんが、当時の楽器を使い、当時の楽譜を用い、当時の奏法でショパンの協奏曲やそのほかの作品を演奏するというのは、いままでになかったことだと思います。その意味でもどんなショパンが聴けるのか非常に興味があります。
小倉 ずっとこういうコンサートをやりたいと思っていたんですが、なにしろ自分一人の力ではできないところがありました。今回は浜松市楽器博物館と静岡文化芸術大学、そして第一生命ホールのご協力で実現することができました。
−−大いに意義のあることと期待しています。お話、ありがとうございました。
[2005年12月21日、TANにて。聞き手/児玉 眞]

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