2002年4月10日 東京文化会館 小ホール [女性たちシリーズについて]
音楽の玉手箱 Vol.4 ベートーヴェンをめぐる女性たち その2〜アンナ・マリー・エルデーディ伯爵夫人〜
共演者: 荒井英治(ヴァイオリン)、花崎 薫(チェロ)

オール・ベートーヴェンプログラム 
幻想曲 作品77
ヴァイオリンソナタ ト長調 作品96(第10番)
チェロソナタ ハ長調 作品102-1(第4番)
ピアノ三重奏曲 変ホ長調 作品70-2(第6番)

[当演奏会のチラシ情報から]

小倉貴久子の室内楽シリーズ「音楽の玉手箱」 〜ベートーヴェンをめぐる女性たち・エルデーディ伯爵夫人〜 

 ベートーヴェンの作品は自らの発意と共に様々な状況に影響を受けて作曲されています。特に高い教養を持った貴族の女性たちとの交わりは大きな影響を与えました。近年の研究により従来の身分違いの女性に恋するベートーヴェンとは全く違う作曲家像が浮き彫りになってきています。私はこの数年来その人間関係に注目し、昨年のリサイタルでは「ベートーヴェンをめぐる女性たち」と題し、不滅の恋人候補筆頭のアントニア・ブレンターノ他を取り上げました。今回の「音楽の玉手箱」ではその2回目として、彼の相談相手だったというエルデーディ伯爵夫人を取り上げます。
 昨秋、オーストリア、ドイツと旅し、ベートーヴェンゆかりの地を散策する機会を持つことができました。200年の時の流れが止まり、彼が愛した風景を共に眺めているような喜びに浸りました。その思いを胸に、このプログラムを演奏したいと存じます。
 今回のコンサートでは、共にベートーヴェンを敬愛する名手お二人との共演も大きな喜びです。皆様にお楽しみいただけることを願いつつ、ご来場をお待ち申し上げております。  [小倉貴久子]

聴きどころ 

 ベートーヴェンが「懺悔聴聞僧」と呼んだエルデーディ伯爵夫人Anna Marie Erdoedy (1779~1837)。ベートーヴェンと一時期共同生活を営んでいたほど親密な友人であった夫人にベートーヴェンは様々な悩み事を相談していました。
 1808年、ナポレオン戦争の混乱から通貨が不安定になり、定収入のないベートーヴェンにとって経済不安が差し迫っていました。そんな折りベートーヴェンに、カッセル宮廷楽長の地位の提供の話がもたらされ、ベートーヴェンはウィーンを去ることを考えていました。そんな彼に対し、エルデーディ伯爵夫人はグライヒェンシュタイン男爵と語らって一計を案じたのです。
 それは、財力豊かな大貴族に働きかけ、彼らの共同出資によってカッセル宮廷楽長の年俸を上回る金額をベートーヴェンに終身受け取れるようにしようというものでした。この年金契約にルドルフ大公、ロプコヴィッツ侯爵およびキンスキー侯爵が応じ、締めて四千フロリンの年金を得ることができるようになりました。この契約によりベートーヴェンはウィーンにとどまり作曲活動に身を入れることができるようになったのです。
 この年金契約が正式にまとまった1809年に、ベートーヴェンはエルデーディ伯爵夫人に感謝の気持ちを込めたのでしょう。作品70の2曲の「ピアノ三重奏曲」を献呈しています。
 変ホ長調の作品70-2は優美な序奏をもつ、全曲が歌にあふれた平和でかくも美しい作品で、この作品を核にこのコンサートは企画されました。
 ウィーン会議のただ中にあった1815年に作曲された2曲のチェロソナタ作品102もエルデーディ伯爵夫人に献呈されたものです。エルデーディ伯爵夫人はシュパンツィヒ弦楽四重奏団の名うてのチェロ奏者、ヨーゼフ・リンケと暮らしていたことがありました。ベートーヴェンもリンケからはチェロの奏法について様々な助言を得ていたとのこと。ピアノの名手でもあったエルデーディ伯爵夫人とリンケとの共演を頭に描いての献呈だったのかもしれません。
 ハ長調作品102-1のチェロソナタは「ピアノとチェロのための自由なソナタ」と題された、古典的な楽章構成から離れた「幻想曲」のような仕立ての作品です。
 当コンサートでは他に、上記2曲と同時代に作曲されたヴァイオリンソナタ ト長調作品96(1812年作曲)と、ピアノソロのための幻想曲(1809年作曲)が演奏されます。

使用楽器について

 当演奏会で使用されるピアノは1820年頃にマテーウス・アンドレアス・シュタインによってウィーンで製作されたものです。マテーウスは、モーツァルトが愛用していたピアノを製作したアンドレアス・シュタインの息子で、ナネッテ・シュタイン・シュトライヒャーの弟になります。姉同様、ベートーヴェンからピアノの修理を依頼されるなど作曲家と強い信頼関係にありました。ウナコルダ、ファゴット、モデラート、ダンパーという4本のペダルを持ったウィーン式アクションの楽器です。

「音楽の友」コンサート・レビュー

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